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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和46年(ネ)164号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人らは、「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人に対し昭和四四年八月四日金沢地方法務局小松支局に、原判決添付別紙第一目録記載の物件につき第一八、一九九号、同別紙第二目録記載の物件につき第一八、二〇〇号による各昭和四〇年八月二六日競落を原因とする所有権移転登記手続の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠関係は、控訴代理人らにおいて以下のとおり陳述し、乙第一四、第一五号証を提出し、被控訴代理人において控訴代理人らの右主張は争う、乙第一四、一五号証の成立は認めると述べたほかは原判決の事実摘示と同じであるからこれを引用する。

(控訴代理人らの主張)

一 本件のように、物上保証人に対し差押がなされた場合には民法一五五条は適用されないと解すべきである。すなわち、民法一五五条は、差押等が「時効ノ利益ヲ受クル者」に対してなされなかつた場合は云々となつていて、要するに「時効ノ利益ヲ受クル者」すなわち時効援用権者以外の者に対して差押などをした場合(第三者が占有ないし所持している債務者所有財産について差押があつたような場合)のことを規定しているのである。ところで、物上保証人が同法所定の「時効ノ利益ヲ受クル者」に該当する点について異論をみないから、結局物上保証人が差押をうけた場合は同条の適用は排斥されることとなるのである。

二 物上保証人のように、時効の中断が問題となる当の債務者以外の者を法律上の当事者として差押などがなされた場合、一片の通知を以て当の債務者についても中断の効力を生ぜしめることは民法一四八条の中断の人的相対効の原則を不当に拡大するものであつて許されない。

三 以上の主張が理由のないものだとしても、民法一五五条にいう「通知」について、競売裁判所のなす競売開始決定の通知をこれに含ましめて解釈するのは違法である。本来、右競売開始決定の通知は競売裁判所の義務ではないから、裁判所の裁量によつて通知がなされたり、なされなかつたりする結果となるものであり、したがつて、このような他人の気まぐれな行為に時効中断の効果をかからしめるような解釈は到底許されるべきではない。

理由

一  原判決添付第一、第二目録各記載の不動産(以下本件物件ともいう)が、もと控訴人の所有名義であつたこと、右物件については控訴人主張のとおり抵当権が設定されたこと、そして、控訴人主張のとおり競落を原因として被控訴人に対し本件物件の所有権移転登記手続がなされていることは当事者間に争いがない。

二(一)  ところで、本件の争点は、第一に前記抵当権の実行がその被担保債権の時効消滅後になされたものであるかどうかというにある。

この点については、当裁判所も右被担保債権の消滅時効は中断によつて完成しなかつたものと判断するものであつて、その理由は原判決六枚目表二行目から八枚目裏四行目までの記載と同じであるからここに引用する。

(二)  控訴代理人らは物上保証人に対し差押がなされた場合には、民法一五五条は適用されないとし、その理由として同条所定の差押は時効援用権者以外の者に対してなされた場合を指し、「時効ノ利益ヲ受クル」ところの物上保証人に対する差押については文理上同条の適用は排斥されるというのである。

しかしながら、民法一五五条は、差押をうけた者と時効による受益者とがちがつている場合に、本来ならば民法一四八条によつて差押をうけていない時効受益者は差押による時効中断の効力をうけないのであるが、差押による時効中断の効果を差押をうけていない当の時効受益者に対してまで例外的に及ぼさせる代りにその前提要件を規定したものであつて、その趣旨は民法一四八条所定の時効中断の効果についての原則を修正すべき必要性と時効受益者の利益との調整をはからんとするにあると解される。したがつて、右規定の立法趣旨に照らせば、民法一五五条所定の差押をうける者とは時効の受益者以外の者であれば足り、これを時効援用権者以外の者に限定すべき理由は全くないといわざるを得ないし、かつ、また、以上のように解したからといつて、民法一四八条の時効中断の効果についての原則を不当に拡大する結果を招来するというものでもない。

さらに、控訴代理人らは民法一五五条にいう「通知」には競売裁判所の債務者に対する競売開始決定の通知を含ましめるべきでないと主張するのである。

しかしながら、同条の通知は、債権者、競売裁判所のいずれからなされようともその効果には差がないから(要は、時効受益者の競売手続の開始されたことを知らされる利益が充足されれば足りるからである)、裁判所が職権により時効受益者たる債務者に対し競売開始決定の送達をなした以上、同条にいう「通知」がなされたものと解するに何の妨げもないというべく、右送達が職権によつてなされたからといつて、これを債務者の地位を不安定にする浮動的なものというのは当らない。

三 さらに進んで、第二の争点につき検討するに、控訴代理人らは本件競売手続には手続上の瑕疵があるから競落が無効であると主張するのであるが、当裁判所は右主張も失当であると判断するものであって、その理由は原判決八枚目裏一〇行目から九枚目表一一行目までの記載と同じであるからこれをここに引用する(ただし、九枚目表三行目から六行目にかけてのかつこ内の部分を、((この点については成立に争いのない乙第一四、一五証によりこれを認める。))と訂正する)。

四、以上の次第で、控訴代理人らの主張はいずれも理由がないから、控訴人の本訴請求は失当として排斥を免れない。

よつて、控訴人の本訴請求を理由がないものとして棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担については同法九五条、八九条を適用し主文のとおり判決する。

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